常任委員のつぶやき

常任委員のつぶやき

門馬英美さんが見つめる東京の街

去年の暮れ、代官山で素敵な絵と出会いました。

代官山の駅を出て、エスペラント通りを右に歩いて行きます。この通り、昔はキャッスルストリートと呼ばれていたはず……と思いながら歩いて行くと、見えるはその名前の由来となった古き良きビンテージマンション・キャッスルマンション。

その1階にポッと灯をともしたようなギャラリーがありました。ギャラリーの名は「Gallery 子の星(ねのほし)」さん、展覧会名は「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2023 緑の電車で旅をして」と書かれています。

ガラス越しに見える青と緑のどこか懐かしさを感じられる版画、松操会会員の皆さま、見覚えがありませんか?

そう、松操会誌の表紙でもお馴染みの版画作家・門馬英美さんのグループ展にお邪魔してきたのでした。

54回卒業の門馬さんは三輪田学園卒業後、武蔵野美術大学油絵学科の大学・大学院に進まれ、大学時代ともに版画を専攻されたハットリアイコさん、吉田庄太郎さんと2016年に「東京会20160229」を発足、それ以来こちらのGallery子の星さんでグループ展をなさっているそうです。


展覧会風景:「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2023 緑の電車で旅をして」Gallery子の星/ 2023年
 

松操会誌の表紙を飾られていた時も素敵だと思っていましたが、実際の版画はさらに魅力的で、その四角く切り取られた世界を観ていると時間を忘れてしまいます。

数々の賞を受賞し、毎年、精力的に展覧会を行なっている門馬さん、電車の中の窓から見える風景に着想を得ることが多いそうです。

しっとりとした青や緑を複雑に折り重ねて表現する水面の小波、木漏れ日、雲のあいだに差す光は、電車の中から外を見つめる門馬さんの目が捉えた風景を覗き見させてもらっているような、そんな不思議な気持ちにさせられました。


展覧会風景:「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2023 緑の電車で旅をして」Gallery子の星/ 2023年
 

東京会20160229発足からさらに遡ること1年。今から9年前、大学を卒業してから同じ専攻の8人ほどで神保町に集まりカレーを食べる会をやっていたと言います。「せっかく集まっているんだから、皆で何かをやりたいね」と話し合い、出たアイディアがカレーだけに「カレーンダー展(『Hanga+Curry展』Gallery子の星 2015年)」。

その時から人数は3人に減ってしまいましたが、今でも毎年、カレンダーを制作し続けているルーツは、カレーにあったというユーモア溢れる話にうっかり笑ってしまいました。

「ただ、カレンダーにしたのには訳があるんです」と、門馬さんは言います。

「もっと版画を身近に感じてほしい。カレンダーなら絵を買うというハードルを越え、気軽に購入することができます。また、気に入った作品を額縁に入れて飾ることもできます。だからカレンダーにしたのです」

そんな日常のアートへの願いから毎年カレンダーを制作し続けていらっしゃるそうです。


2024年カレンダー:「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2023 緑の電車で旅をして」Gallery子の星/ 2023年
 

毎年、東京の風景をさまざまな角度から表現している東京会20160229の皆さん。

「流れゆく川とともに」「その橋を渡って」と、東京の流域の風景を描き、そして去年は「緑の電車で旅をして」と、山手線が通る場所からはどんな風景がみえるのか、東京駅から日暮里駅を中心に、3人がそれぞれの視点で捉えた風景をそれぞれの手法で描く展覧会を見せてくれました。

門馬さんとハットリさんと吉田さんの3人は、山手線の駅を描くシリーズを5年かけて完成させる計画を立てています。シリーズが始まる時には、展覧会を5年間継続させるという契約書をかわし、そしてカレー(!)を食べながらミーティングをしているそうです。


展覧会風景:「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2023 緑の電車で旅をして」Gallery子の星/ 2023年
 

お友だちのハットリアイコさんも、門馬さんの作風とはまた違った素敵な表現で市ヶ谷を描いてくれています。

これはお堀の釣り堀・市ヶ谷フィッシングセンターです。

なんと吉田さんとハットリさんは市ヶ谷にお住まいだったこともあるそうです。門馬さんは中高時代を市ヶ谷で過ごし、おふたりは市ヶ谷に住み、そしてなぜか今、武蔵野美術大学も市ヶ谷にあるという巡り合わせについて「なんだか不思議な気がしますよね」と盛り上がってしまいました。


ハットリアイコ《新宿区》2018年


こちらは、展覧会にお伺いした時にお話を伺うことのできた吉田さんの作品です。

ひとくちに版画といっても、吉田さんが描かれる古い文学作品の挿絵のような一瞬でタイムトリップさせてくれる作品もあれば、ハットリさんのノスタルジックな時空の中に迷い込んだような作品もあり、門馬さんのように独自の深い色を使って瑞々しい瞬間を切り取った作品もある、ということがわかり、とても感動しました。

吉田さんは木口木版、ハットリさんは板目木版、門馬さんはシルクスクリーンとそれぞれ違う手法で刷られているそうです。


吉田庄太郎《路地》2020年
 

最後に松操会の方なら「あ!」と思ってしまいそうな風景の版画を1枚、ご紹介します。

門馬さんはこの場所をどんなに市ヶ谷の街が様変わりしても、ここだけは変わらない貴重な場所だから好きなんです、とおっしゃいます。

三輪田学園からの帰り道、市ヶ谷駅に向かう人も、九段下駅に向かう人もいたと思います。寄り道してはいけない校則の中で、友だちとのつきぬ話を終わらせぬよう、市ヶ谷駅、飯田橋駅、九段下駅、神保町駅まで遠征してグルグルと回っていた会員の方も多いのではないのでしょうか。

そんなあの日の思い出がこの絵には描かれているように思えます。

またいつか、この市ヶ谷の風景とどこかで再会できますように。


門馬英美《郷愁》2023年

yoco.y

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版画作家 門馬英美

<ホームページ>
https://www.hidemimomma.com/

<Instagram>
  hidemimomma_silkscreen

 

【今後の展覧会情報】

①グループ展

「2024企画チャリティー『作家市・つくりびと』vol.4」
会期:2024年4月21日(日)〜4月28日(日)
時間:13:00-19:00 最終日は18:00まで
会場:ギャルリ朔(ついたち)https://www.gallery-tsuitachi.com/access
〒168-0082東京都杉並区久我山5丁目4-29

 

②個展

「門馬英美個展」
会期:2024年8月6日(火)~8月12日(月・祝)
時間:12:00〜19:00 最終日は17:00まで
会場:Gallery 子の星 http://www.nenohoshi.com
〒150-0034 東京都渋谷区代官山町13-8キャッスルマンション113

 

③グループ展

「TOKYO×PRINT×LANDSCAPE 2024 〜緑の電車で旅をして〜」
会期:2024年12月19日(木)〜25日(水)
時間:12:00-19:00
会場:Gallery 子の星 http://www.nenohoshi.com
〒150-0034 東京都渋谷区代官山町13-8キャッスルマンション113

 


 

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